illust by Hayate
―――――――――――――――
誰にもナイショの夜
―――――――――――――――
story by Hiro

古い洋館
静かな人の気配さえ伺えぬその場所に
パタパタと小さな足音が響いた。
気配は無いが、人のいることの証明のように長い廊下に灯りがぽつぽつと燈っている。

その、子供なら逃げ出したいような長い廊下を、少女は急いでいた。
少女といってよいのか、その容姿は性を持っていない。
蜂蜜色の柔らかそうなクセ毛、象牙色の肌、印象的なのは、深い緑の瞳。
まるで天使のような・・・・

そして、
少女はとある扉の前で立ち止まり、古めかしい金のドアノブに手をかける。
今夜はいつも手放した事の無い、あのカードも置いてきた。
頬が薔薇色に上気しているのは、走ってきた所為なのか、

それとも・・・・


ギィ・・・・

きしむ音を響かせて、扉が開く。

テーブルの燭台だけが、部屋を照らす光源だった。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の向こう、窓辺に男が一人、佇んでいる。
少女の来訪を知っていたかのように笑みを浮かべ、男はゆっくりと少女の方に歩み寄ると、

「眠れないのかい?」

と手を差し出した。
少女は何も言わず、差し出された手に頬を摺り寄せて男を見上げる。

「ひとりで、きたの」

男の笑みが深くなり、愛しげに天使の頬を撫でる。
幸せそうに甘く蕩ける笑みを浮かべ、天使が男の掌に小鳥のような口接けをした。

「いい子だ・・・」

 不意に男の手が離れ、不安げに天使が男を見上げる。
すると彼は視線を巡らせ、天涯付きの寝台を視線で示すと、今度は両手を少女に差し出した。
 何の迷いも無く、天使の軽い身体が男の手の中に飛び込んでいく。

「いい子だね・・・」

男が再びそう言い、抱き上げた天使の蜂蜜色に軽く口付けをひとつ。

「いい子には、ご褒美をあげよう・・・」

男の声が耳に直接送り込まれ、天使がピクリと背中をのけぞらせた。
クスクスと男の笑う声がする。

そして、

天涯の天鵞絨が降ろされた・・・







君を識っているのは、私だけだよ