疵
お前がこの身体につけた微かな疵は
ほんのちいさな疵だったけれども
俺が忘れていたはずの過去を呼び覚ました
それは時の流れの中に消えてしまったと信じていた
忌まわしい記憶
その記憶が今、俺の身体を壊そうとしている
封印されていた過去
俺を自分の所有物とし、
自分の望むままの行動を強制されていた
あの時の窒息するような思い
俺はやっと檻から抜け出して
身体は自由になったはずなんだ
それなのに
遠い場所から…そいつは俺に対する支配を続けようとしていた
お前は俺の身体に疵をつけることで
その記憶を蘇らせた
俺がこんなふうにのた打ち回っている姿を
お前が見たら…喜ぶのだろうか
俺を苦しませる影響力を自分が持っていたと
お前は喜ぶのだろうか
生憎だな
俺を苦しませているのは過去の記憶だ
お前なんかがつけた疵じゃない
お前がつけた疵も
過去の記憶も
必ず断ち切ってみせる
そしてお前の存在は
――俺の記憶の中から完全に消え去るだろう |
言霊つかい
もう一人前の言霊つかいだって
自惚れていたよ
自在に言葉を操っていると思い込んでいた
あの時…
君の剣に宿る精霊を召喚できた時
僕は言霊つかいとして
一人前になったと信じていた
でも
本当に僕の気持ちを伝えたい時に
僕は言葉が捜せない
君の姿に言葉を失って
立ちすくんでしまう…
こんな時には
お師匠さんの教えなんか役に立たないんだね
君に伝えたいことは
この身体から溢れ出ているのに
僕は…自分の言葉が捜せない
君をこの手で抱きしめられたら
僕のこの気持ちは伝わるのかな
君の濡れた睫毛にそっと触れたら
君の気持ちがわかるのかな
…いつでも僕は君の側にいるよ
…哀しい時には僕を頼って
…僕は君の笑顔が好きなんだ
僕の言葉は中途半端なまま
また、心の中に飲み込まれてしまう… |
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幻影
誤解しないで欲しいね。
お前の…心なぞ、いらないんだ。
好きなだけ、あの男の幻影に酔っていればいい。
だから、そんな瞳で私を見ないでくれ。
目を閉じて…いつものように陥ちてしまえばいい。
裏切りの色の…快楽の海へ。 |